【コラム_02】デザインとメンテナンス


(2010.4.17付コラム再掲)
いつどこで初めて東京カテドラルの写真を見たか記憶が定かではないが、とても印象的だったことを覚えています。
おそらくそれから頭の片隅の一度見てみたい建物の一つになっていたのだと思います。しかしなかなか機会がなくて、やっと見学する機会が出来ました。
大改修を終えたばかりというものの竣工から40年以上経過しているにもかかわらず、これほどダイナミックでシンボリックな建物はその洗練されたフォルムから来る力強さ、逞しさを感じさせる作品は数少ない。

この東京カテドラル聖マリア大聖堂は1962年に丹下健三、前川國男、谷口吉郎の三氏によって指名競技設計が行なわれたのはご存知の方も多いと思います。(わたしは2005年の前川國男展まで知りませんでしたが)当時の記事によれば、教会サイドの要望は鐘塔を設けること、および立ち席を入れて約2,000人(椅子席500800)の聖堂を建設する2点だけで、その他のレイアウトはすべて建築家の自由にまかせられたということでした。
3案を比べて見てみると前川案や谷口案に比べて、実現した丹下案は、垂直にそびえるHPシェルを用いて構成した巨大な十字架がシンボリックに宗教建築を表現し、両巨匠の案を圧倒していると感じました。

当時の丹下さんは「現代建築にもシンボルが必要なのではないだろうかと考えるようになり、ちょうどこの東京カテドラルを設計している時、私はこうしたシンボル論を考えていた」(「いくつかの経験」丹下健三 SD8001)というように、戸塚カントリークラブ・クラブハウスや日南市文化センター、香川県立体育館、東京オリンピック国立屋内総合競技場といった建物を設計し、空間と象徴という課題に取り組んでいた時期でもありました。
また作品集のタイトルである『現実と創造1946-1958』から『技術と人間1955-1964』へというタイトルからもわかるように、戦後の荒廃し、廃墟化した日本の現実を直視し、そこから立ち直り、いかに発展して行くべきか取組まなければいけない時代にあったこともこのデザインへと導いたのかもしれません。

コンペには負けたものの、前川さんが残した東京カテドラルのスケッチを見るとデザインの思考プロセスを垣間見る事ができ、試行錯誤を繰り返し、生みの苦しみを感じながらデザインしているのがわかります。
デザインはふとした瞬間に思いつくこともありますが、形になるまでは幾重にも検討を積み重ね、試行錯誤しながら生み出されて行くものです。
こうした建築家たちが生み出すデザイン力はとても魅力的ではありますが、自分で設計するときはもちろん、他者が設計したものについても、いつも気にすることはコストやメンテナンスに関することです。東京カテドラルは確かにダイナミックで圧倒される空間を持っています。しかしその一方でその造形デザインは自分の目から見ても雨漏りや照明、音響などに問題があったことは容易に想像できるし、実際問題が発生していたのも事実です。
デザイン優先かメンテナンス優先か、悩ましいところではありますが、改修工事写真を見ると外壁の下地がかなり錆び付き、外壁は丸みをつけているため(当時担当者であった荘司氏は「この双曲抛物面のふくらみのある勾配は、日本の都市環境、とくに伝統ある勾配屋根の家並みとの調和をもたらそうとした。」もの)下地11本が特注であったことには驚かされました。これらのことからもかなりコストと手間がかかっていることは容易に想像できます。
コストがかけられるうちはメンテナンスは容易かもしれませんが、継続的に行うためにはかなりの負担となることだと思います。

建築が自然を相手に過酷な条件の中で建ち続けるためには、定期的に行なうメンテナンスが重要になってくることはいうまでもありません。 最近でこそ少し見直されてきていますが、 日本の建築はどちらかというと消耗品として扱われ、まだ不十分な分野だと思います。造形デザインが良くともメンテナンスに莫大な費用がかかっては維持管理が大変になります。
またデザインとメンテナンスとの関係性は技術力の進歩とも関係してきます。確かに現代はコンピューター解析も容易になり、施工技術も精度が高くなったおかげで、デザインの幅は広がったといえます。
中にはメンテナンスフリーをうたった素材も数多く出てきています。しかし適度なメンテナンスは建物を維持して行く上で必要なことだと思いますし、建築自体が自然と対峙している以上、必須事項だと思います。
何事においてもバランスが重要で、素材の使い方は適材適所で選択して行く配慮が大切だと考えます。

都市と建築、建築と人間、そして都市と人間という結びつきを表現した丹下さんの建築を通じて、これからの時代の建築はどうあるべきか考えさせられた東京カテドラルでした。

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