【展覧会レポート_01】インポッシブル・アーキテクチャー展


先週の日曜日に埼玉県立近代美術館で開催されている「インポッシブル・アーキテクチャー」展に行ってきた。
約5年ぶりになるだろうか、天気も良く日曜日とあって、公園内は多くの子供連れの家族で賑わっていました。美術館も混雑しているかと心配しましたが、思っていたほどの混雑もなく、じっくり見ることができました。
ご存知の方も多いと思いますが、建物は黒川紀章氏による設計で、格子状の外観が特徴的です。今から35年以上前の1982年に開館しました。また公園内には黒川氏が設計した中銀カプセルタワーの住戸ユニットが野外展示されています。興味のある方は北浦和駅からすぐ近くなので、訪れてみるのもいいかもしれません。
そう言いながら個人的には、今までは訪れる機会が少なかった美術館のひとつです。見てみたい展覧会があまり開催されないのも一つの理由かと思う。常設展もあるのでたまに足を運べばいいのだけれど、なかなか行けてませんね。
埼玉県内にある県立の美術館はこの近代美術館だけで、公立、私設の美術館を合わせても関東の他県に比べると少ない県です。
人が集まる話題の展覧会を開催するのは苦労も多いけれど、駅前のアクセスのしやすさを考えると、もう少し話題性の高い展覧会が多く開催されればと内心思っています。
さて前置きはこのくらいにしましょう。
「インポッシブル・アーキテクチャー」展ですが、タトリンの第3インターナショナル記念塔、ブルーノ・タウトのアルプス建築、ミースの摩天楼のコンペ案、メタボリズムにアークグラム、そしてデコンストラクティビズムと学生時代に学んだ建築、そして同時代の建築作品も並んでいた。少し学生時代の復習をしている感じもしたし、中には勉強不足で知らない作品も展示されていました。
タイトルであるインポッシブルとは単純に訳せば不可能ということだが、そこに込められたメッセージはなんだろうか。
カタログにある主催者のあいさつ文にはこうある。
「建築の歴史を振り返ると、完成に至らなかった素晴らしい構想や、あえて提案に留めた刺激的なアイデアが数多く存在しています。未来に向けて夢想した建築、技術的には可能であったにもかかわらず社会的な条件や制度によって実現できなかった建築、実現よりも既存の制度に対して批評精神を打ち出す点に主眼を置いた提案など、いわゆるアンビルト/未完の建築には、作者の夢や思想がより直線的に表現されているはずです。
この展覧会は、20世紀以降の国外、国内のアンビルトの建築に焦点をあて、それらを仮に「インポッシブル・アーキテクチャー」と称しています。ここでの「インポッシブル」という言葉は、単に建築構想がラディカルで無理難題であるがゆえの「不可能」を意味しません。いうまでもなく、不可能生に眼を向ければ、同時に可能性の境界を問うことにもつながります。建築の不可能生に焦点をあてることによって、逆説的にも建築における極限の可能性や豊穣な潜在力が浮かび上がってくるーーーそれこそが、この展覧会のねらいです。」(インポッシブル・アーキテクチャー展公式カタログP.006より引用)
建築とはリアルであり、社会の一部でもあると思う。一歩先の時代と社会を読み、実現させなくてはならない。展示の中には全く建設が不可能なものや概念的なものも含まれている。技術的には確かに可能かもしれないが、実際に建てるには現実的でないものもある。時には建築は一時的なものとして造られるケースがあるが、使い方とメンテナンスをしっかり行っていけば基本的には半永久的に使えるものである。
実現できなかったものはそのリアルさに欠け、社会の一員となることを拒絶しているかのようなデザインがある。
アンビルトの建築にはデザインの優れたものも多いが、建築が建築であるためにはやはり、社会との接点を探るべきだと思う。
今回の展示の中で一番見入ってしまったのはやはり、ザハの2020年東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場案だ。コンペの当選案を初めて見たときはかなり衝撃的だった。東京にザハの建築ができるのかと。
展示には図面の製本がずらりと並べられ、風洞実験で使用された模型も展示されていた。まず実施図面の多さと技術的検証も含め、各行政機関との協議を終え、設計もほとんど終了し、確認申請を提出する段階まできていたという。設計者という立場からここまで設計が進んだ段階での白紙撤回された時の気持ちを考えると、しびれるものがある。
確かにコストの高騰は実現するための一番高いハードルである。いくらデザインが良くても無視できないし、ましてや税金を使うことの意味を考えると、この白紙撤回した決断の検証にはもう少し時間がかかることだろう。
しかし技術的に建築可能であったインポッシブル・アーキテクチャー。建築とは皮肉なものだ。時に政治的に利用されたり、社会の象徴として位置付けられる。従って建築家たちは抗いもがき続けるのだろうか。
昔とは違う現代日本社会において来年開催される東京オリンピック・パラリンピック。2025年に開催される予定の大阪万博。次世代にしっかりとバトンタッチできるようなイベントになって欲しいが、どうなるだろうか。。。
話を戻すと全体の展示内容としては、満足しつつも少し物足りなさを感じたところもありました。今までの展覧会でみたものも多く、新鮮味に少しかけていることも原因かもしれない。お腹いっぱいという状態まであと少しという感じでした。
今回の展示では岡本太郎による「おばけ東京」や現代美術家で画家である会田誠氏、山口晃氏による絵画が共に2点ほど展示されていたことは面白い取り組みだと思った。特に会田誠氏の「東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図」と山口晃氏の「都庁本案圖」は原案を会田氏が考え、それを具体的に清書したのが山口氏という。発注芸術の形式をとっている作品だ。実際の展示は最後の方でしたが、建築家たちの作品よりもリアルに感じる部分もあったのは山口氏に
よる画力のせいだろうか。
山口晃氏は、個展等が開催されると見に出かけ、本が出版されると購入するほど好きな画家である。
今回、展覧会を見に来た理由の一つでもあります。
埼玉での開催は今月の24日までですが、その後は新潟、広島、大阪と巡回する予定になっています。もしご興味ある方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

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